2001 年 10 月 15 日 (月) 自宅

さて、最近気になる和製英語のネタを書いてみたいです。 とは言っても、月並みに和製英語が悪いといいたいのではないです。 どうも、「ナイター」も最近はちゃんとアメリカで通じるらしいし、 まあ、その程度まで浸透すれば構わないんですが、 最近できたての和製英語ってやっぱり面白いと思います。 特に、まだ日本人の多くが和製英語と思っていない和製英語を探すのは楽しい (^^;。

前から和製英語説を疑っているのが「リンクフリー」なのですが (なんか、ほにゃらら-free っていうのは、 duty-free とか maintainance-free って方向の語感があるんだが、 ウソかな?)、 最近和製英語説が濃厚になってきたのが、 以前「トルマリンゴ」をおちょくったとき話題にした、 「マイナスイオン」です。

なんでこんなことを話題にするかというと、 昨日アキバの T-Zone でトルマリンゴを売っていて、 その横で流れていたビデオでトルマリンゴの開発者という人が、 パソコンの有害電磁波をトルマリンがマイナスイオンに変化させてくれる、 と力説していて、 以前から「マイナスイオン」って、 昔習った陰イオンとなんか違うぞ、 と思っていた私はちょっと調べる気になったのです。 で、調べてみると、なんだ、「陰イオン」って英語では "negative ion"、 あるいは "anion" じゃん! そういえば昔大学で使った物性物理の英語の教科書では anion だったと思うぞ。 つまり「陰イオン」という概念で私が知っていたものと、 「マイナスイオン」という概念は全然別物らしいのです。

ということで、 今度は google で、"minus ion" をフレーズ検索で、 英語ページ限定で検索してみました。 わずか 238 件。 ちなみに "negative ion" では 14900 件、 "anion" では 71600 件。 メチャクチャ和製英語っぽい振る舞い (^^;!

まあ、手始めに google で「マイナスイオン インチキ」と検索してみて (手始めにしてはひどい検索キーワードだなぁ ^^;)、 最初に引っ掛かったのがここ。 なんだ、私が昔から知っているサイトじゃん (このサイトの評価は私的に結構高い)。 最近行ってなかったけど。 うさんくさいマイナスイオン家電 (大手では松下電工のマイナスイオンドライヤー、 東芝のマイナスイオンエアコン等) がなで切りにされています。 しかしこのページでも呆れられてるけど、本当にすごいねぇ〜、 松下のドライヤーの説明。 よい点は「マイナスイオン」の定義がわかることです。

(マイナスイオンとは)マイナスの電気を帯びた酸素と空気中の微小な水が結合したものです。 一般に髪はプラスに帯電しやすいといわれています。 そこにマイナスイオンを当てることで、髪に水分が浸透。 さらに髪の表面を水のベールがやさしくコートするので、 髪の水分率をキープします。 静電気も中和して、髪のまとまりを一層良くします。

うーん、解せない説明です。 誰かわかりやすく解説してください〜。 だが、それより気になるのが、 上記ページにも当然触れられているのですが、 以下の部分。

マイナスイオン発生時に臭いがすることがありますが、人体に影響はありません。

このドライヤーは放電で「マイナスイオン」を作っていますが、 放電で匂うといえば真っ先に考えられるのがオゾンです。 どうも私は、以前放電式の空気清浄器のオゾン臭さに辟易したことがあり、 それ以来オゾンを発生する機械ということにあまりいい印象を持ちません。 しかも直接顔付近に空気を吹きつける道具ですよ?

たとえば、マイナスイオン業界の広告ページでさえ、 オゾンの有害性を強く指摘しているページがある一方で (中には「他社製品は NOx まで発生させている」と主張するページもあります)、 オゾンの発生を肯定した上で、 殺菌効果を主張したり、消臭効果も主張したりしているところもあります。 ただし中には、オゾンが酸化還元反応の結果水となり、 その結果として室内の湿度が一定に保たれるなんて物凄いことを書いている製品もあります (こわいので上記の例は直接リンクしません。 google あたりで上記キーワードを入れて検索してください)。 そんな物凄い濃度のオゾンを発生したら人間なんて一発であの世行きです。

ってな事情で、実際は殺菌効果も疑わしいのではないでしょうか (脱臭効果はあると思いますが、オゾン自体が匂います)。 いろいろ資料を調べると、 空気中の殺菌に使用するオゾンの濃度は 0.3ppm 程度以上、 厚生省の安全基準では 0.1ppm のようです。 確かに局所的に濃い濃度のオゾンに晒すこと (オゾン水殺菌など) は、 殺菌効果があると思いますが、 それを室内に拡散させて効果があるかどうかは疑わしいものと思われます。 住まいの科学情報センターの、 この記事によれば、以下のような報告がなされているようです。

アメリカ環境保護庁の報告書[3]によると、オゾン式空気清浄機で室内空気汚染を効果的にコントロールできるかについては、これまで得られた科学的知見では、健康基準値を超えないオゾン濃度では、室内空気汚染物質はほとんど除去できず、臭いの原因となる多くの化学物質を有効に除去できないことを示す証拠があること、また、その濃度では、ウィルス、細菌、カビなどの生物汚染源を有効に除去できないと報告しています。
そして、室内空気のオゾン濃度には多くの因子が影響するため、オゾン式空気清浄機を取扱説明書通りに使用していても、扉の開閉、部屋の大きさ、空調の使用状況などによって、健康基準値よりも高いオゾン濃度に達成する可能性があり、例えばアメリカ環境保護庁が行った研究によると、扉を閉め切った状態で、最も多くオゾンが発生する強設定でオゾン式空気清浄機を作動させた場合、0.20-0.30ppmのオゾン濃度を示す商品があったと報告しています。

ネタ元となった、EPA の資料を読んでも、確かに結論に次のように書かれています。 しかも太字イタリックで (^^;。

ということで、つまり、 「マイナスイオン」とオゾンを同時に宣伝している商品は、 単に「マイナスイオン」発生時に同時に発生するオゾンに関して「いいわけをしている」だけであり、 もし「マイナスイオン」の効果がインチキであると仮定すれば、 その効果のために (いくら濃度が低いとは言え)、 危険性が指摘される気体を吸うのはいかがなものか、 という結論になると思われます。 ちなみに、人間の嗅覚にオゾンが関知される閾値は、 0.01ppm 程度からだということですから、 匂う以上は安全基準の 1/10 以上は突破しているということです。

さて、 最近のマイナスイオン製品で注目株は…やっぱり誰もが知ってる大企業じゃないと、 イマイチですよねぇ…、 そうだこれだ、資生堂 肌水エア。 商品的には、電気的手段ではなく、 純然たるレナード効果を用いて「マイナスイオン」を発生させていそうなので、 特に危険な商品ではないと思うのですが、 ここから「マイナスイオンに関するサイト」としてリンクされているページを読んでみました (「特徴」をクリックすると出ます)。が、 そこで科学用語で解説されているのはおおむね「マイナスイオン」ではなく、 陰イオンの話です。

しかしそれにしても、原子の話と紫外線、電磁波 (紫外線は電磁波のうちです)、 排気ガス、食物、ストレス (これが一番意味不明) が、 原子から電子を弾き出す要因となるエネルギー、として一列に並んでいるし…。 っていうか、食物はともかく、ストレスって「エネルギー」なの? しかも実際のマイナスイオンってのは、 さっきの話だと負に帯電した水滴のことなんですよね? もはや何がなんやら…。

さらにこのページ、 マイナスイオンは痴呆、癌の治療に効果あるとも読める内容なんですが、 それは本当に二重盲検法等で検証された実験データに基づくものなのでしょうか? 第一、本当にこんなページに化粧品のページからリンクして大丈夫なんですか? 法律関係とか心配になってしまいます。

まあ、いずれにせよわかることは、 本当にまっとうな科学用語であるならば、 大手の企業のページ、あるいはそれに準じるページで解説されている用語の定義が、 著しく異なっているはずがない、ということですね。


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ほそかわ たつみ <hosokawa@FromTo.Cc>
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