2006 年 11 月 8 日 (水) 六本木

韓国映画「トンマッコルへようこそ」、観てきましたよ。

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この「トンマッコルへようこそ」は、いろいろな意味で観にいきたかった作品なのです。ストーリーはこんな感じ。

朝鮮戦争のまっただ中、仁川上陸作戦の直後が舞台。漢江の橋を避難民ごと爆破した(史実だ)ことをトラウマに持ち脱走兵になった韓国軍の兵士と、情に厚いことで逆に部下を多数死なせてしまった北朝鮮人民軍の兵士がともに、(韓国の時代劇で出てくるような、現実とはかけなれた「昔」の生活を送る)「トンマッコル」という桃源郷に迷い込む。

そこに、近所にとある理由で墜落した米軍の兵士もいる。彼らは最初は対立するが、穏やかな村人や村そのものののどかさに取り込まれ、次第に心を通わせていく。しばらくして、その米軍兵士の救出のために外部から米軍が送り込まれ、トンマッコルが空爆対象になっていることを知る。彼らはトンマッコルを守るため、共に戦うことを決意し…。

…というストーリーなのです(ここまでは観る前に予備知識として知っていた)。これは、ヤバい。どう見ても、現在の韓国における左派政権のプロパガンダ映画です。イノセントな朝鮮半島に、悪しき米軍がいる。北と南、力を合わせてこれを追い出そう。そういうメッセージが、たかだかあらすじからさえ濃厚に漂っています。

ということで、実際に観てみました。水曜のレディースデイに男が映画を観にいくのはなんか空しい、なんで前のねーちゃん2人は2,000円で俺は1人で1,800円なんだよ、と思う。まあ、ちと不愉快だ(笑)。それはいいとして…。

正直な話、単純にファンタジー映画として評価するのであれば、出来はかなりいい。単純に面白い。南北の兵士のキャラは立っているし、知恵遅れ(?)のトンマッコルの少女と少年兵の淡い恋心のようなサイドストーリーもなかなかいい。次第に心を通わせていく南北の兵士達のエピソードもよくできている。随所のユーモアも、おおむね自然に受け入れられる範囲(時にアジア映画のユーモアは、ちと露骨だったり引いてしまうようなものもあるからね)と言える。

さらにこの監督、かなり宮崎駿の作品が好きなのか、各所に宮崎作品へのオマージュが見える。しかも音楽は久石讓、…なのだ。

だが、その出来の良さが、逆にこの作品の危うさを強化してしまっている。この映画は、あくまでプロパガンダ映画なのだ。たとえば舞台となるトンマッコルという理想郷、こんな世界は、絶対にこの世界に存在し得ない、嘘の世界だ。この映画は、嘘の世界の上に作られた、理想的な人間関係を描き、その上で現在の国際情勢に関わるプロパガンダを行っているのだ。

「今は戦争をしている」ということを聞いたトンマッコルの老人は、「戦争?日本人とかね?それとも中国人と?」とか訊くが、字幕とは違い、日本人は倭奴 (ウェノム)、中国人は垢奴(テノム)と呼んでいる。どちらも強い侮蔑語だ。全く、ずいぶんな理想郷だ(笑)。

オマージュ対象となっていると思われる宮崎駿は、いろいろ議論はあるだろうが、この作品ほど人間の業を無視したりはしない。その最大の例として、たとえば「風の谷のナウシカ」原作の最終章などは、どうしようもない人間の業と、善意から来る理想の押しつけがましさが強烈に描かれている。あらゆる点で文句の付けようのない、素晴らしい作品だと思う。

それと比較すると、なぜか中国の人民解放軍が出てこない朝鮮戦争で、北と南が力を合わせて米軍をイノセントな朝鮮半島の地から撃退するというこの映画は、あまりに政治的な狙いがあざとすぎる。

正直、昔の北朝鮮の映画「大怪獣ブルガサリ」の方が、政治的なメッセージとしてはずっと共感できる。

「プルガサリ」は、暴虐な支配者から農民を守ってくれた鉄の怪獣プルガサリが、目的を果たしてしまうと今度は農民に必要な鉄を食いつぶす邪魔な存在となってしまい、それでも農民は「恩があるから」と鉄を貢ぎ続けて、というアイロニーに満ちた作品だ。

正直、こんなアイロニカルな作品がよく北朝鮮で作れたな、と感心したのだが、まあ、絶対権力の下では、皮肉という概念に人は鈍感となるのかも知れない。

しかし、強圧的な権力下にもあるわけでもないのに、「トンマッコル」のような映画が受けてしまう韓国という国はどうなのだろう。このプロパガンダ性が意識されずに受けているとするとさらに不安だ。正直な話、現地ではこの映画、どういう評価なのだろう?


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