本日読了。春江一也『ベルリンの秋』。
そもそも読んだきっかけは、 昨年読んだ『プラハの春』の続編であるということでありました。
続編の宿命として、 前作は越えられないとか、 前のキャラクターのイメージが崩れるだとか、 毎度毎度のいろいろな問題が予想されましたが、 わりとそのあたりはうまくやっていて、 なかなかしみじみとした続編となっていて感心しました。
思い出すと『プラハの春』の最終章には、 その後のキャラクタたちの現在に至る運命が短くまとめられているのですが、 その短い淡々とした文章が、 『ベルリンの秋』では、大河ドラマ的にふくらまされています。 そういえば前作の登場人物の多くが東ドイツ人であったわけで、 その意味では東ドイツに舞台を移し、 「壁」の崩壊までを描くこの作品のストーリーは、 実に自然な続編と言えるでしょう。 そして前作同様、 歴史の史実に巧みに織り込まれたフィクションが、 生き生きとした人間描写によって描かれているのが、 この小説のいいところでしょう。
大河ドラマと言って気が付きましたが、 昭和が終わって大河ドラマで南北朝時代を題材にできたのと同様、 そろそろソビエトと東ヨーロッパで流れた戦後史というものが、 イデオロギーとそれほど関係なく、 小説の題材にできるようになってきたんだな、と感じます。 こういうストーリーこそ、 腰を据えた長いドラマとして見てみたいなぁ。 まあ、21 世紀までは無理でしょうけど。
前作のラストで悲劇の最期を遂げたカテリーナ・グレーベの娘の、 シルビア・シュナイダーが、 母親そっくりに美しく成長し、 東ベルリンに日本大使館設立準備スタッフとして赴任していた主人公と突然再会する、 というという事件からはじまる、 なんか出来過ぎと言えば出来過ぎのストーリーなのですが、 魅力のある人間描写と、 どこからどこまでが事実なのだか判然としない迫力のある筆力はさすがです (なにしろ、著者が実際にプラハと東ベルリンに外交官として赴任していたのは事実のようですし)。 結構、このストーリーのどこまでが事実なのかは興味あるところです (冒頭の献辞が意味深長)。
まあ、これ以上言葉で語るのは野暮というものでしょう。 というわけで、 久しぶりに歴史物の力作を読ませて頂きました。 脱帽。お勧め。